写真館(第4回)

2021年3月11日の「コロナ時代の銀河」公演公開に向け、過去の公演の一部を朝岡英輔が撮影した写真と共に紹介する「銀河鉄道 写真館」を開館(オープン)します。

2016年7月16日(KESEN ROCK FESTIVAL’16)

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選者:管啓次郎コメント

賢治さんゆかりの種山高原で開催される、このロックフェス。ゴッチこと後藤正文さんの参加を得て、銀河ロックンロール鉄道が走り出した。特設ステージ、最高の気分。みんなふつうじゃない精神状態で(たぶん)臨んだ上演、途中のクライマックスのあたりではっきりと気象が変わり、ものすごい速さで霧が吹きつけてきて、あたりはピンクフロイドもかくやという幻想の風景へと一変した。こんなことってあるのか。だが、あった、たしかに。霧の水滴が、音と物語をいつまでも空中に漂わせていた。

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選者:柴田元幸コメント

ロックフェスティバルの一環としての公演である。自分はいつものとおり朗読しただけなのだが、後藤正文さんが加わってくれたこともあってか、「ロックしたなあ」という馬鹿みたいな感慨がよみがえってくる。が、ロックフェスのなかに入って異物ともならず埋没もせず、銀河の夜空の下にもうひとつの銀河が出現したのではないかと思う。

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岩手県種山ケ原には、2015年にも皆で訪れている。その時は、高原の中に立つ(銀河ステーションのモデルになったとも言われる)巨石の下で4人の読み合わせを聴いた。KESEN ROCK FESはこの高原で開催されるロックフェスで、私も知っている有名バンドが多数出演していた。午後に会場につくとASIAN KUNG-FU GENERATIONが素晴らしい景色をバックにタイトな演奏をしていて気持ちが踊るようだった。やがて日が落ちてはじまった『銀河』はそのASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんが加わったスペシャル・ロックンロール版で、よりノイジーに躍動する音と朗読が夜空へと飛んでいった。それを撮るような気持ちでレンズを空に向けると、いつの間にか漂っていた霧に気づいた。星は見えなかったが、ステージは眩しかった。

2017年12月16日(八戸文化教養センター)

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選者:小島ケイタニーラブコメント

寒い夜だった。窓の外には雪が降っている。冷え込む控室の廊下で、自分の手がこれ以上冷たくならないように必死にホッカイロを握った。僕は震えていた。理由はこの寒さだけでなく、“イタチ”という大役に緊張していたのだ。朗読劇の冒頭でイタチは“さそり”役の柴田さんとの大切な掛け合いがある。それは漫才のように軽妙なやりとりだったので、こうしてイタチがガチガチに緊張しているわけにはいかなかった。二人でステージに上がり、会場の視線がマイクスタンドの前に立つ柴田さんに一斉に注がれる。空気が一気に張り詰めたその瞬間、柴田さんが発したセリフの一言目「さそりです。」が、ドッと受けた。その場の温度が一気に上昇していくようだった。生まれて初めて、たった一つの言葉で空気が変わるのを感じた。僕の口角が自然と上がり、視線も上向きになる。それに続く柴田さんのセリフ「どうです、さそりに見えてきましたか?」によって、さらに会場のボルテージは上がっていくのだけれど、この部分、古川さんが書いた脚本では以下のようになっている。
「さそりです。……。どうです、さそりに見えてきましたか?」
急激にあたたまったステージの上で、この「……。」の意味が少しわかった気がした。その後のイタチとさそりの掛け合いはもちろんうまくいった。最初から最後まで、笑いだけでなく、悲しいシーンも、切ないシーンも、ここにいるみんなが一緒に感じてくれているのがわかった。「……。」が溢れていた。それは、まるでこの会場全体が、一本のろうそくの炎となって、暗闇の中をしなやかに、チラチラと揺れているかのようだった。
公演が終わっても雪は降り続いていた。八戸の夜は一層冷えこんでいく。しかし、ポカポカになった心はなかなか冷めそうになかった。いつまでもこのあたたかい雪を見ていたいと思った。

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南部会館の144畳の和室には座布団が敷き詰められていて、その広さに驚く。庭に面した縁側の廊下が長く伸び、勿論こんなに大きくはないが祖母の家ーーやはり廊下があり、そこで書道教室を開いていたーーを思い出す。その縁側のマイクスタンドに反射する太陽、そのスタンドを使ってリハーサルする管さん。本番前に薄暗い中でスタンバイする4人。舞台でスライディングして舞台にどかっと腰をおろす古川さん。イタチの小島くんと蠍に見えた柴田さん。終演後の結露した窓のそばの柴田さんと、その外に舞い始めた雪も写真に撮ったと思う。河合さんがこの時の公演を撮った映像は、カメラ一台を持って舞台裏を駆けていて、ドキュメンタリーは主観が作るものだという基本を改めて教えてもらった気がした。
今後の公開予定

第5回 3月10日公開

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