（撮影：朝岡英輔）

9月29日、雨にもかかわらず来場くださった皆さん、ありがとうございました。そして、9月30日、来場が「叶わない」ことになってしまった皆さん、ごめんなさい。ただ、ここで僕はきちんと言葉にしておきたいのですが、上演が果たせなかったことで「悔しい」とは思っていません。じつは「寂しい」と思っています。会場（主催）である世田谷美術館さんの、中止との判断は正しかったですし、ＪＲなどの電車運行とりやめの判断も、僕は支持しています。風が吹いたのでした。人びとを悲劇に追いやるかもしれない台風なのでした。だから9月30日の上演は「叶わなかった」。そのことが「寂しい」。しかし、悲劇が少しでも危険度を下げたことは、よかった。僕はいま、信じています。9月29日のあのステージが、過去へ未来へと時間の《膜》をちょっとだけ飛び越えて、9月30日に観ようとした、観たがっていた皆さんの耳に、目に、皮膚に、響いていることを。あのバージョンでの脚本・演出は、9月29日限りかもしれないけれども、それは絶対に響いている。

寂しさのなかで、しかし、そうした音色、音響、旋律、声、言葉を信じています。ともに聴きましょう。

古川日出男